「ハッピーハロウィン!!!!」

 聞き覚えのある声が重なった。
 バンユウの部屋の中から姿を現したのは、先ほど町で出会い別れたパーシルたちや、フラメとブレズ、校門でお菓子を渡したスライムたちも、そして何故か理事長であるルイーダの姿もあった。皆ハロウィンにちなんだ仮装をしている。
 部屋の中も飾り付けられており、お菓子や料理がテーブルの上にたくさん乗せられていた。
「ラシーン…オマエの企みか」
 バンユウが苦い顔で尋ねると、ラシーンは、いや、と首を振った。
「鍵を借りたのは確かに計画のうちだけどね。ともあれ、たまにはみんなでお祭りを楽しむのもいいだろ、バンユウ」
「オマエ、用事ってまさかこれのことだったのか」
「まぁね。でも、ボクが計画したわけじゃないよ」
 言い、ラシーンはすっと視線を後方へ移動する。
 そこに立っていたのは――

「オマエの企みだったのか」

 パーシルやジャンピエ、英雄と、あともう一人。
 彼ら生徒会の3人と常に共にいるその生徒は、優しい笑顔で微笑んだ。
 その傍らには、いつも共にいる羅針盤を背負ったスライム――スラミチもいる。

「ここにいる皆と友達なのは、あの子だけだからね」
 顔にペイントを施し、色っぽい悪魔の仮装をした理事長ルイーダが言った。
「といっても、あの子にこの依頼をしたのは、フォズちゃんなんだけどね」
 フォズとはウォーク学園の学園長である。フォズもここへ来るよう呼んだようだが、賑やかな場は苦手なのでと断られたようだ。
「最近この学園に赴任してきた貴方を心配していたようね」
 ルイーダはバンユウに視線を移す。
「みんなと馴染めるようにというわけか。フォズ先生も粋なことするなぁ」
「何言ってるのラシーン君。貴方だって一枚嚙んでるのは知ってるわよ」
 ルイーダは、しれっとフォズを持ち上げて自分のことを棚に上げようとしたラシーンに笑いかけた。
「貴方もバンユウ君のことが心配だったんでしょ」
「いやもういいじゃないですかルイーダさん」
 ラシーンは頬を染め、めずらしく焦ったようにルイーダの言葉を止める。
 ルイーダは、分かったわよとクスクス笑ってから、ふと先ほどの生徒を見遣った。
「大した子よね。これまでも、学園の問題は全てあの子のお陰で解決されたんだから」

 彼らが通うウォーク学園は、かつて様々な問題が起き、ルイーダ学園長を始め、教師や生徒、学園の皆は困り果てていた。
 そこに突如現れ、次々と問題を解決したのがこの生徒であるが、それが語られるのはまた別のお話である。

 その生徒は、そんなラシーンに目配せしてから、ゆっくりバンユウに近づいた。
 そして、すっと手を差し出し、何か促すように彼を見上げる。
 バンユウが目を白黒させていると、ラシーンが寄ってきて、そっと耳打ちしてきた。
「ほら、今日はハロウィンだろ?」
「は…?」
「いいから~、ほら、この子も待ってるよ」
 かの生徒の手にはかごが下げられ、中にはたくさんの袋に入ったお菓子が積まれている。
「バンユウさん、お菓子要らないならぼくが代わりにもらってあげるよ」
 生徒の隣にいたスラミチが、すでにお菓子で口をいっぱいにしながらバンユウを見上げていた。生徒はそんなスラミチをいったん制して、もう一度バンユウを見る。
「と、トリック、オア、トリート…?」
 視線に耐えきれず、バンユウが照れくさそうに蚊の鳴くような声で呟くと、生徒は笑顔で頷き、バンユウに小さなお菓子の袋を差し出した。
「ハッピーハロウィン! これからもよろしく! 先生、そして学校のみんな」
 生徒の満面の笑顔を見、バンユウは少なからずだが、心の奥底に眠る、自分では説明のつかない僅かな靄の破片のようなものが、すうっとすくような気がしていた。


著者:狩生