「アロン先生に、リバーロ先生? なんですその恰好…」
 バンユウは彼らを見、思わず眉間にしわを寄せた。
 ざんばらの黒髪に顎髭を生やしたアロンは、頭に大きな海賊帽子、左目に黒い眼帯と、映画に出てくる海賊のように、ご丁寧につけ毛の細い三つ編みを何本かつけ、黒いベストをまとっていた。段ボールで作られたであろう、刃の曲がったおもちゃの剣も片手に持っている。
 助手席から顔を出した同じく学園の生物学教師リバーロも、彼がプライベートで追っている怪鳥を模したようなくちばしと羽のついた衣装を身にまとっていて、どうも~!と上機嫌で手を振っている。夜の闇の中、ライトに照らされた黄緑の髪の毛が映えていた。
「今から一緒に飲みに行きません? なに、ハロウィンの仮装をしていると割引になる飲み屋があってね」
 バリトンのよく通る声で申し出るアロンに対し、バンユウは渋い顔で答える。
「アロン先生、あなたが酒豪なのは知ってます。言っときますけど、オレは免許もっていませんよ」
「問題ないです。リバーロ先生は今日は飲まないといっていますし」
「えぇっ!? そんな話聞いてないですよ!?」
 リバーロが反論したが、アロンは無視して車からいったん降り、バンユウの背中を押す。
「いやオレはもう飯は食ったし、家はこの近くだから…」
「たまにはいいじゃないすか。バンユウさんの分のハロウィン衣装も用意してますよ」
「いや、オレは着ませんよ」
「仮装した人数に比例して割引率が上がるんですよ~。協力してください。ほらほら、飲んだ後はちゃんと家まで送ってあげますから!」
 半ば無理やり車に乗せられたバンユウは、仕方ないというように、はぁと息を吐いた。
「んじゃ、シートベルト締めました? 行きますよ~」
 エンジンをふかし、アロンは楽しそうにハンドルを切った。

 アロンの運転する車はしかし、なぜか繁華街から離れていく。
 しばらく夜景を楽しみながら車を走らせ、やがて停車した。
 バンユウはこの道のりに覚えがあった。自分の家のすぐ近くの駐車場だ。
「こんなところに飲み屋なんかなかったと思うが…」
 バンユウは首をかしげながら、二人に促されて車を降りる。
 アロンが先頭を歩きだし、リバーロとバンユウもそれに続いて歩いた。

「あの、アロン先生…」
「なんです?」
「ここ、オレのマンションですよね」
 マンションの入り口に入ろうとしたアロンが、そうですね、とバンユウのほうへ振り向いて笑った。
「振り回して申し訳ない。実をいうと、あの子に頼まれましてね」
「??」
「時間もちょうどいい。そろそろラシーンさんも来る頃だ」
 アロンがそういった時、一階のフロアに現れた人物が、中から自動扉を開けた。
「ラシーン?」
 マンションの中から出てきたのは、ゾンビの仮装をした背の高い男性……ラシーンであった。
「やぁ、おかえり」
「ラシーン、一体どういうことだ?」
「説明はアナタの部屋でするよ」
 ラシーンは言い、エレベーターに乗り込んだ。彼らもそれに続く。
 エレベーターを降り、バンユウの部屋のドアを軽くノックすると、誰もいないはずの部屋の扉が中から開いた。


著者:狩生