食事が決まらないまま、商店街を歩いていると、本屋の前で再び男女の生徒たちを見かけた。
「あ、バンユウ先生こんばんは」
 赤茶の髪をセミロングにした女子生徒――フラメが深々と礼をする。
「まだ決まらないのか、フラメ! オレは腹が減ったぞ!」
「兄さん…恥ずかしいからあまり大きな声出さないで」
 フラメは顔を赤くして、隣にたたずむ兄――ブレズをたしなめる。彼は癖のある明るい茶髪で、真っ赤なTシャツの上に学生服を着ていた。
「もう少し時間がかかるようなら、オレはバッティングセンターで少し特訓してから行こうと思うが!」
「兄さん、部活引退して久しいものね。力が有り余ってるのは分かるけど…今日は兄さんの参考書を選びに来たのを忘れてない?」
「お前に一任する!」
「あのねぇ…」
 フラメは額に手を当て、呆れたように息を吐く。
「ブレズは推薦で受かったんじゃなかったか」
「先生、確かにそうですけど、このままでは進学してもついていけないと思います。私がしっかり見張っておかないと、ずっと野球をしていそうですし」
「野球は楽しいぞ! フラメ、お前も小さい頃はオレと一緒にやってただろう!」
「いつの話してるのよ…。分かったから兄さんはバッティングセンターで時間つぶしてて」
「了解だ! …そうそう、ついでにハロウィンのお菓子も買っておくぞ!」
「うん、お願いね」
 ブレズはもう一度、了解だ!と叫び、バンユウに軽く礼をして、猛スピードで走っていった。
「すみません先生、兄はいつも慌ただしくて」
「オマエも来年受験だったな。オマエなら、今の成績で大抵のところは受かるだろうが」
「買いかぶりすぎですよ。まだどこへ行くか決めてませんし、これからゆっくり考えます」
「あまり気負いすぎるなよ。ブレズもああ見えて、お前のことを心配している」
「そうでしょうか…?」
 フラメは腑に落ちない顔をしたが、すぐに笑んだ。
「そういえば、今日はラシーン先生とご一緒じゃないんですね」
「オマエもいうか…。べつにアイツとオレはセットというわけではないんだが」
「いつも仲良さそうなので、二人一緒じゃないとなんか落ち着かないって、みんな言いますよ。特に一部の深みにはまった女子生徒たちが」
「?? そういうものなのか…?」
「私にはよく分からない世界ですけれどね」
 フラメは意味深に含み笑いした。
「私はもう少し本を探します。先生はこれからご飯ですか?」
「あぁ。邪魔したな。もう暗いから気をつけて帰れよ」
「帰るときは再び兄を呼びつけますから、大丈夫です」
 シックな模様の手帳カバーのついたスマホを取り出し、フラメはウィンクした。
 彼女にも別れを告げ、バンユウは再び街を歩きだす。

 完全に日は落ち、闇に包み込まれ、月の光と街灯が僅かに道のりを映しだすのみだった。


著者:狩生